研修医は超激務で3割が燃え尽きる? 

2013/4/18
弁護士、会計士など、世間一般で「ゴールドライセンス」と呼ばれる資格の中でもピカイチの人気を誇るのが、「医師免許」だ。とはいえ、彼らのキャリアパスはあまり知られていない。
結婚、出世や転職、果ては、懐事情はどうなっているのか、一般のビジネスパーソンから見ても、彼らがどのようにキャリアを積んでいるのかは気になるところだ。この連載では医師専任のキャリアコンサルタントとして、300人以上の医師のキャリア設計に携わってきた中村正志氏が、医師たちの世間のイメージとは一風異なる内情をつづる。
 前回のコラムでは、「女性医師」についてその勤務の実態やキャリアについてお伝えしましたが、今回は“研修医”にスポットを当ててみたいと思います。

 研修医とは、読んで字のごとく、一人前の医師になるための研修を受ける医師のことを指します。医学部を卒業して2年間の研修を受ける医師を初期研修医、その後、専門的な科目において研修を受ける医師を後期研修医と呼びます。

 ところで研修医を英語で言うと何というか、わかりますか? 

 “レジデント”

 と言います。レジデントというのは研修医の直訳にはならなさそうですが、実はこのレジデント(resident)という言葉は、“居住すること、住み込み”ということに由来します。つまり、ずっと住み込んで働くことで医師としての素養を身に付けるという意味を含んでいるのです。

 おそらく皆さまも研修医=忙しいというイメージを持たれている方が多いと思いますが、これが想像以上に大変です。

 研修医の朝は早く、先輩医師よりも早く来て病棟回診。その後、カンファレンス(症例検討会)出席、チームでの病棟回診、カルテ書き、外来見学、勉強会出席……などと、目まぐるしく1日が過ぎていきます。

 また、朝から晩までの通常勤務とは別に、研修医に平等に与えられるのが当直業務です。

 初期と後期の違いや選択する科目によっても違いますが、少なくとも週1回は必ず勤務しなければならず、そこでは救急患者が来ると研修医が上級医よりも先に連絡を受け問診、所見、検査などのオーダーを出さないといけません。当直帯は医師の数も少なくなり、助けてくれる医師も限られます。

そんな中、自分1人で患者に対応していく力を身に付けていき、いろいろな修羅場を経験しながら一人前の医師になっていく大切な仕事になります。日中を含め連続勤務は日をまたいだ長時間になることもあり、当然、頭のよさだけではやっていけないということはご理解いただけると思います。

■ 医師は何歳でもなれる! 

 さて、医師になるには研修医としての修業期間が必要なのですが、そもそも医師には年齢制限があるのでしょうか? 

 実はありません。医学部に入学し、卒業が認められ国家試験に受かると誰でもなることができるのです。通常は高校卒業後、大学の医学部を受験するというパターンが一般的ですが、昨今は医師不足が問題になっていることに加え、多様な学生を受け入れたいという医学部の意向により、編入学や社会人入学など、いろいろな経験を持った学生が医学部には集まってきています。

 私もいろいろなバッククラウンドを持った医師と出会っています。たとえば大学の理学部で物理を専攻し卒業した後、医学部に入りなおした方、大企業のサラリーマンでしたが、仕事を辞めて医学部に入りなおした方、看護師や薬剤師などの医療関連の資格を取ったものの、医師になりたいということで再チャレンジした方など、さまざまな方が医学部には集まります。

 多様な人材が医学部に集まるというのは、大変よいことだとは思いますが、問題となるのはその適性や年齢です。

■ ドラマのようにはいかないことも

 少し前にSMAPの草彅剛さんが主演で話題になった『37歳で医者になった僕~研修医純情物語』というドラマがありました。

 実話を基に、川渕圭一先生という方が書かれた小説が原作でした。主人公がある出来事をきっかけに勤めていた大企業を辞め医学部に再入学。37歳でようやく研修医になったのですが、そこで研修先である大学病院の旧態依然とした体制に疑問を感じてしまい、自分の信念の下、孤軍奮闘していくといったあらすじでした。

 すでに社会人となっていても、仕事に何か物足りなさを感じていたり、次の目標を探していたりする人は多いと思います。特に学生時代に成績がよかった方なんかは、このようなドラマを見ると“よし!  オレも医者になってやろう!! ”と思うわけです。

 ネットで調べると、そういった方の医学部合格体験記が出てきますし、医学部専門の予備校を調べてみると、医学部受験をあおるような広告文がある。見ていると「自分にもできる」と思ってしまいそうな記事や情報があふれています。

 もちろん、今までのキャリアを捨てて医学部を目指し、そして合格する方というのは非常に優秀な方ばかりで、そのチャレンジ自体はすばらしいことです。頭はよく、もう後戻りはできないということで、医学部の勉強にも非常に熱心に取り組みます。ただ大切なのは、医師になることではなく、医師として活躍できるようになることです。

 医師として必要なのは、頭だけではありません。患者に寄り添い、命を預かる医師になるためには、健康な体と心がまず大切。加えて、ハードワークにもへこたれない根気が必要で、それが試されるのが研修医の数年間なのです。

■ 「40歳・研修医」の苦悩

 私が以前、キャリア相談にのったA医師は、サラリーマン生活をずっと送ってきましたが、医師不足で地域医療が崩壊してきていることに問題意識を持ち、一念発起して医学部受験を決意しました。32歳で見事医学部に入学し、38歳で医学部を卒業。現在40歳の研修1年目の先生です。

 医療に対して情熱は熱く、非常にまじめな先生ではあるのですが、慣れない当直勤務やオンコール生活(オンコールとは受け持ち患者の病状が夜間に急変した場合、自宅から電話などで看護師や当直医に指示を与えること)に嫌気が差し、研修がもう少し楽にできるような病院を探したいということで相談を受けました。医学部を卒業し、出身大学の付属病院で研修を経験したのですが、そんな情熱的な彼でさえ、ドロップアウトが何度も頭をよぎったと言います。

■ 研修医の3割がバーンアウトやうつ状態

 研修医がうつやバーンアウト(燃え尽き)になりやすいというのは、医療業界ではよく知られたことです。

 岐阜大学大学院医学系研究科産業衛生学分野の2009年に発表された「1年目研修医のバーンアウトと職業性ストレスおよび対処特性の関係」によると、1年目の研修医に対して研修開始後約2カ月時点のバーンアウト発生状況を調査したところ、「バーンアウトに陥っている状態」または「臨床的にうつ状態」と判定された研修医の割合は、男性で26.0%、女性で36.6%となり、平均して約3割の研修医がバーンアウトやうつ状態であることがわかりました。

 冒頭に触れたとおり、研修医はレジデントと呼ばれ、住み込みで働くくらいの覚悟でやらなければ身に付かないものです。医師免許取得後15年以降の先生であれば当直が免除ということもありますが、研修医では、当直は必須。救急車がバンバン来るような病院だと週2回くらいの当直を課せられるところもあります。

医学部生からいきなり社会人となり、当直はもとより、休みの日であっても担当する患者が急変したときなどは、携帯が鳴ります。それこそ365日緊張が途切れないという日が何年かにわたって続きます。24~25歳で医学部を卒業した若手の研修医でも心が折れたり、体力が続かない方が多いのに、30代後半や40歳オーバーの研修医が、その生活に耐えられるでしょうか? 

 もちろん、そういった生活に順応し、立派に医師になっている方はたくさんいます。しかしながら私の下に持ち込まれるキャリア相談では、年齢の高い方ほどついていけず、休職されたり、うつ病を発症されたりする傾向が高いと思います。

 つまり、やる気だけでは勤まらないのです。 ■ あまりにも年齢が高いと、求人も極端に少なくなる

 ほかの医師同様、人生経験を何年か経た方が、医師国家試験に受かり医師として最初の一歩を踏み出すのは、初期研修です。第3回目のコラムでも書いたとおり、医師の就職率は96%以上ですから、そこで就職ができないということは、ほぼありません。初期研修の2年間は、ある意味、病院としてもそれほど期待感はなく、給与も低い中で、雑用などもこなしてくれるコマとしか思っていません。実際、ローテーションで各科を数カ月間回って過ごす生活なので、多くの患者を責任持って長く受け持つということもありません。

 しかし、3年目からの後期研修は違います。研修医とはいえ、医師として外来や病棟も持つことにもなるため、採用側も医師なら誰でもいいということにはならないのです。そこで中年研修医の方は、初めて自分の市場価値がそれほど高くないということに気づきます。

 研修医の人気のある病院は、やはり中年よりは若い研修医を選びます。当然、人間性が高く、頭がよかったとしても、研修医としての通常勤務に耐えられるか、という観点が発生するため、年齢は重要です。

 また、病院や大学の組織というのは、年齢的なバランスというのを重要視します。

 院長をトップとして、部長、医長、医員というのは年齢的に50代、40代、30代となっていくのが普通です。ですので、そこにいきなり40代の研修医が入ってきたら、バランスが大きく崩れてしまいます。最近よくある現象として、指導医クラスの医師が部下として入ってきた研修医よりも年下だったため、扱いに非常に苦労をしたなんてことが起こります。一般のサラリーマン社会では、今やそんなことは当たり前になってきたのかもしれませんが、まだまだ医療界は古い体質です。そうした中で、中年研修医は孤立しやすい傾向にあり、なかなか周りに溶け込めないということがあります。

 私は「医師のキャリアを考える(http://ameblo.jp/nhmc040930/)」というブログを書いておりますが、最近は本当に中年研修医が増えていることから、「医師になるには相当な覚悟が必要」というトピックの記事を書いたことがあります。これは多くの読者に読まれているようですが、医学部を目指す社会人は、医師になってから本当に活躍できるのかということを真剣に考えたうえで、受験していただきたいと思います。

■ 中年研修医が進む道

 体力の面で劣る中年研修医は、科目の選択において、手術を中心とする外科系に進むのは少数です。外科になるにはハードな研修はもちろん、一人前になるのに10年かかると言われています。仮に40歳の医師がいた場合、自信を持って患者に手術ができるのが50歳。ちょっと想像しにくいですね。また内科であっても、カテーテル手術など急性期治療が必要な循環器内科や、患者の急変で夜間の呼び出しなどが多い消化器内科は、なる人が少ないです。結局、年齢や体力的な問題を考えると、自分がなりたいと思っていた科目を選択するのは現実的に厳しく、消極的な選択をせざるをえなくなります。では中年研修医が主に進む科は何か? 

 それは精神科です。

 これはある意味、理にかなっていると思います。医学部に入り直した方は多くの社会経験があり、患者側の視点で社会を見ている方が多いため、さまざまな社会の矛盾や問題を肌で感じられます。それゆえ患者の気持ちが、高校からそのまま医学部に入学した医師よりもわかるといった利点が考えられます(100%そうとも言い切れませんが)。また、研修についても、ほかの科に比べるとプログラムに柔軟性があり、早く一人前になりやすいのです。

 高ストレス社会において精神科の需要は広がっており、そのような意味で精神科を選択する研修医が多いのは自然なことですが、とはいえ、年齢が高いと医師になっても自分の選択の幅が狭くなるというのはあらかじめ知っておくべきだと思います。

■ 医師として一生の仕事にしていく覚悟

 医師というのは、最高の資格で食いっぱくれがなく、誰もがあこがれる職業かもしれません。大企業においてもリストラが進み、一歩先、半歩先が不透明な世の中においては、さまざまな社会の矛盾に嫌気が差し、医師として患者のために働きたいと思う方が増えるのは、ある意味当然のことだと思います。ただし、頭がよくて医学部に入学する能力があるだけでは、医師として充実した一生を送ることはできません。そのような適性や能力をあらためて考えさせられるのが研修医の期間であり、そこで一生を医師として過ごすという覚悟が試されるのです。
中村 正志   ヤフービジネスニュースより


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