日本史<話の世界・出雲王朝VS大和王権 考古学最大の謎

神話の世界・出雲王朝VS大和王権~考古学界も火花散らす 2013/04/30
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出雲王国を唱えるのは、島根などの考古学研究者、文献学者が多く、大和派はもっぱら関西の考古学者だった。「大和や北部九州の勢力が、それぞれの境界にあたる出雲の地に銅剣や銅鐸、銅矛を埋めた」との第3の説も出されたが、あくまで大和や北部九州が中心だった。

 ■地下からよみがえった出雲王国

 「島根県内には100メートルを超える古墳がみられない。弥生時代をみても、『銅鐸は近畿、銅剣・銅矛は北部九州』という二大文化圏から出雲は外れ、あくまで縁辺の地とされた」

 数十年前までの考古学界の風潮についてこう話すのは、島根県文化財課の松本岩雄文化財専門官。「神話の世界では主要舞台でありながら、考古学的には全国レベルで議論されることはなかった。仮に議論を提議しても『実体がない』といわれるだけだった」と、振り返る。

 今では出雲王国のシンボルとされる「四隅突出墳」という弥生時代後期の特異な墳墓についても、関西の研究者からは「変な形をした田舎の墓だ」といわれるほどだった。

 こうした出雲への偏見を覆したのが、荒神谷遺跡の発見。さらに平成8年には、同遺跡からわずか3・5キロほどしか離れていない加茂岩倉遺跡(雲南市)で、銅鐸39個がまとまって出土し、1カ所の遺跡としては全国最多の出土数となった。「国内最多」がこれほど重なる出雲をもはや、考古学者も「辺境の地」と言えなくなった。

 加茂岩倉遺跡の銅鐸と、荒神谷遺跡遺跡出土の銅剣には奇妙な共通点があることも分かった。それぞれの表面に「×」印が小さく刻印されていた。何を意味するかは不明だが、松本氏は「共通の意識をもった集団が同じような時期に埋めたことは間違いない」と話す。

 ■最大のミステリー

 「考古学最大の謎」(松本氏)といわれる銅鐸や銅剣の大量埋納。松本氏がここで着目するのが、かつて「田舎の墳墓」と関西の研究者らに揶揄(やゆ)された「四隅突出墳」だ。方形の墳墓の四隅から舌状の張り出しが伸び、ヒトデのようにも見える奇妙な墓で、今から1800~1900年前の弥生時代後期に隆盛した。

 荒神谷や加茂岩倉遺跡の青銅器が埋められたのは弥生時代後期初めごろで、四隅突出墳の出現とほぼ重なる。松本氏は「四隅突出墳に埋葬される強大な統治者が出現したため、これまでの銅剣や銅鐸をあがめる祭祀が終焉(しゅうえん)し、一括して埋められたのでは」と推測する。

 新しい王の出現とは、大和など外部勢力による出雲征服を意味するのだろうか。

 これについて松本氏は、荒神谷、加茂岩倉両遺跡の青銅器が極めて丁寧に並べて埋められている点を重視。「外部の征服に際して緊急避難的に埋めたのなら、これほど丁寧に埋める余裕もない。征服されたとすれば、見せしめのため敵対勢力によって粉々に破壊されたことも考えられるが、そうではない」と話す。あくまで新たな統治者の誕生は、出雲内部でのことだとする。

 四隅突出墳が集中する出雲市の西谷墳墓群では、弥生時代後期の40~50メートルクラスの大型墳が見つかり、岡山・吉備地域の土器が大量に供えられていた。大和や北部九州に対抗した「出雲・吉備連合」勢力の存在をも浮かび上がらせた。

 しかし、これほど独自性を誇示した出雲も、古墳時代になると四隅突出墳が忽然(こつぜん)と姿を消し、一気に大和勢力の傘下に組み込まれていく。古墳も100メートル以上の大規模のものがないことは、中小の勢力に分断されたことを意味する。

 ■大和に不利な神話は消せ!

 現在の考古学論争だけでなく、1300年前に編纂(へんさん)された古事記や日本書紀をひも解くと、「大和中心主義」はさらに露骨だった。

 「国(くに)来(こ)、国来」。出雲の神が、かけ声とともに各地から領土を綱で引っ張ってきたという国引き神話。「出雲の国は最初に小さく造りすぎた。もう少し縫い足そう」と朝鮮半島の新羅から余った土地を綱でたぐり寄せ、隠岐や能登半島などからも土地を引っ張ってきて東西に縫い合わせたのが島根半島と伝える。

 出雲の領土拡張を物語る国引き神話は、奈良時代に編纂された出雲国風土記の冒頭に記されながら、不思議なことに同時代に成立した古事記や日本書紀にはいっさい登場しない。

 その理由として、出雲の神が真っ先に新羅の領地に目をつけたエピソードは、朝鮮半島支配が出雲主導だったことにつながると、大和側が警戒したためともいわれる。

 一方、記紀にしっかり記されているのが、国造りと国譲り神話。オオクニヌシが国土開拓につとめ、ようやく稲穂の実る豊かな国土になった途端に、高天原の神・アマテラスが「自らが統治すべき土地だ」と国の譲渡をオオクニヌシに要求した。オオクニヌシの息子が抵抗したが無残に敗れ、国は高天原に譲られた。

 高天原に例えられる大和王権が、出雲勢力を駆逐したという大和中心主義を記紀が強調したことを如実に示す。

 とはいえ、古事記・上巻の中で3分の1を占める出雲神話が、歴史的に重要であることは揺るがない。

 ■出雲神話を発掘が証明

 神話のエピソードが決してフィクションでないことを証明したのが発掘調査だった。

 国譲り伝説の中で、オオクニヌシは天にそびえるほど高層の神殿を建てることを条件にしたと古事記は記す。この高層神殿こそ現在の出雲大社とされ、平成12年に本殿南側で前代未聞の巨大建物の柱が出土した。

 現在の本殿は高さ24メートルだが、平安時代の文献史料から、かつては高さ48メートルもあったとされる。しかし、現代の15階建てビルにも相当する高層建築を平安時代に建てられるはずはないと、建築学者からも疑問視され、出雲神話はフィクションといわれ続けた。

 しかしこのときの発掘で、太さ1メートル以上もある柱3本がしっかり束ねられた状態で見つかった。これほど太くて強固な柱は高層神殿にしかあり得ず、実際に建てられていたことが証明された。

 日本海岸に面した出雲は、中国や朝鮮半島から最新技術や文化が直接渡ってきたとされる。その結果、大和や九州とは一線を画す強大な勢力が誕生。発想豊かな神話に結びついたようだ。

 国譲り神話に登場する出雲大社の巨大神殿について松本氏は、「天に届くような神殿を建てたという神話があったからこそ、当時の人たちは高さを追求した」と指摘。「歴史が神話をつくったというより、神話が歴史をつくったともいえる」
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